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アスリートの致命的な怪我を克服する手段、PRP療法

極限まで鍛えるトップアスリート。強靭な体を持つ一方、どこかに脆さも持っています。
今回は故障した部位を短期間で治癒するプロジェクトについてです。


マー君で注目された療法

先日 ニューヨーク・ヤンキースに所属するメジャーリーガーの田中将大投手が肘の怪我で手術とは異なる特別な治療を受けたことが報道されました。
田中選手はイチロー選手や石川遼選手を凌ぐ、現在日本で最も注目を集めるトぷアスリートです。
東スポWebで次のような記事がありました。

◆ヤンキース田中がPRP治療を開始
2014年07月16日 10時19分  【ニューヨーク15日(日本時間16日)発】
ニューヨーク・ポスト紙は右肘靱帯を部分断裂したヤンキースの田中将大投手(25)が14日(同15日)にPRP治療の注射を受け、復帰へ向けての第一歩を踏み出したと報じた。

PRPとは自身の血小板を患部周辺に注射し、組織の修復や再生を促進する治療法。キャッシュマンGMによると、当面、安静にして回復の状況を見てリハビリを開始する。エクササイズ・プログラムをこなし、その後に投球プログラムに進むとのことだ。時期は未定だという。

同紙は「ヤ軍で最も重要な右肘」と形容。「1億7500万ドル(約178億円)を投資した25歳の切れた靱帯が、トミー・ジョン手術(靱帯修復手術)を回 避できるようヤ軍は指をしっかりクロス(人差し指と中指を交差させ幸運を祈るしぐさ)させる」とリハビリの重要性を強調した。

トップアスリートであればあるほど必ず身体のどこかに故障を持っていることでしょう。
極限まで鍛え上げた肉体は強靭でありその一方、脆さを持っています。

私は、医師としてアスリートの身体能力を向上させるだけではなく、いかに故障した部位を短期間で治癒させ復帰させるプロジェクトをこれまでも 順天堂大学医学部 研究チームと一緒に遂行してきました。

その中でも画期的な未来の治療といわれる再生医療を応用した新しい怪我や故障個所の治療である PRP療法を以前にも紹介しました。
田中投手の治療の報道で 多くのトップアスリートからの問い合わせも増えてきましたのでPRP療法を再度、詳細に解説します。

ACR療法とも言われます PRP(自己多血小板血漿)療法。
自分の血液を20ccほど採血(場合によっては100ccほど)して遠心分離器で採血した血液から血小板を豊富に含んだ(自己多血小板血漿)血漿のみを抽出します。

この抽出した 血小板を多く含む 血漿を痛みや炎症、肉離れ、断裂、骨折した部位へほんの0.3cc~数ccほど注射するだけで驚異的な治癒が進むという再生医療治療です。




PRP療法は国内では、美容医学分野でしわを除去したり、肌の弾力を改善させたり肌質を若返らせる、アンチエイジング治療として普及していた治療法ですが、最近ではスポーツ分野で腱、靱帯、筋肉、骨などの再生にも驚異的な効果が医学的に実証されつつある治療法です。(http://www.bloodcure.com/


プロゴルファーのタイガーウッズも靱帯損傷やアキレス腱断裂でこのPRP療法を繰り返し受けて短期間の復活を遂げたことを過去には取材インタビューの中で発表しています。

海外ではすでに有名プロゴルファー、オリンピック金メダリスト、NBAプレーヤー、メジャーリーガーなど数多くのトップアスリートがこの治療の恩恵を受けて怪我から短期で驚異的な復活を遂げていることが知られています。

アンチエイジング診療を行う私はPRP療法の臨床研究を5年前からスタートして現在は、順天堂大学大学院医学研究科、小林メディカルクリニック東京と共同 で アンチエイジング医療・再生医療のスポーツへの導入を進める中での重要な研究項目として位置付け臨床研究や治療プロトコールの作製を 自らのクリニッ クで行っています。

リスクが無いと言われているPRP療法ですが、国内ではトップアスリートへの試験投与を行ったのは私が初めてで慎重に大学と提携して効果やリスク、経過を観察、研究しています。

残念ですがまだ、確実なプロトコールが完成しておらず手探りの部分もあります。しかし、症例を重ねるごとに 安全にほぼ確実な効果が期待できる 治療プロトコールも完成しつつあり将来性が大きく期待できます。


PRP療法の手順

PRP療法の手順や理論について簡単に解説します。

自らの血小板を多量に含んだ血漿を特殊な採血・分離キットで精製します。
私どもの使用するキットは、MyCells® と言われるものでイスラエル製です。

実はこのMyCells®が唯一 FDAで生体内への投与が認可されたキットです。
歯科用でも使用されているキットがありますが、PRPの採取量や濃度にばらつきがあり信頼度に欠けるようです。
PRP療法といってもキットによって治療効果に大きな差が出ています。

世界でも複数のメーカーがPRP作製キットを販売し、最近では韓国でもPRP作製キットの製造、販売に力を入れています。

血小板は血液を凝固させる働きがありますが実は、他に大変重要な働きがあります。
血小板の中には、α顆粒という部分があります。この中には、EGF,PDGF,VEGF,TGF-βと言われる 成長因子(Growth Factor)が豊富に含まれています。
成長因子は血小板に刺激が加わると多量に血小板から放出されます。
成長因子は傷ついた組織を修復したり、感染を防ぐため白血球を引き寄せたり、新しい毛細血管を造るシグナルを出したりします。



つまり組織のダメージを効率よく短期間で修復するための司令塔の役目を果たすのです。
怪我が早く治ったり痛みが短期間で取れたり弱くなった靱帯や腱が強化したり組織が若返ると言った再生医療なのです。

このメカニズムは私が過去のコラムで解説しています創傷治癒理論が基になっています。
人間の修復力をPRPによって高め自己治癒を促進する治療法です。


PRP療法は切断された指が再生したり、皮膚が壊死を起こした患部も短期間で治癒に至ります。

効果は 数日後ではなく数週間後から出現します。ステロイド注射との決定的な違いは、ステロイド注射は炎症を抑制し 痛みを取り除くだけで 組織修復には 一切効果が期待できません。それどこかステロイド注射を行うことで組織をさらに脆くして ダメージを組織に与え 競技への復活が不可能になることも少なく ありません。最近ではストロイド注射をアキレス腱の炎症に行うと一時的な痛みの改善にはなっても長期予後は悪くなる報告もあります。

PRP療法は1回でも効果が期待できますが 1か月間隔で3回行う1クール療法を私どもはプロトコールとして考えています。現在は、腱や靭帯、筋の損傷を対象にしていますが将来的には、関節内の問題、十字靭帯損傷、軟骨損傷などの治療にも応用されていくことでしょう。

アスリートの方々はドーピング行為にならないかご心配されますが、現在ではどの部位へ投与してもPRP療法はドーピングには該当しないことが確認されています。

治療時間は数分です。注射だけですので短時間で終了します。術後の痛みも少なく 3日ほどの安静で部位にもよりますが徐々に運動を行うことが可能です。痛みが無ければ軽いトレーニングは3日後から可能です。

日本初!PRP療法をトップアスリートに施術

国内でアスリートとして最初にPRP療法を受けたのは、アジア大会でも銅メダルを獲得し、アテネ、北京五輪陸上男子110MH日本代表、元日本記録保持者の 内藤真人選手です。

北京五輪前からアキレス腱の強い痛みに苦しみ満足に練習ができませんでした。
北京五輪後もアキレス腱の故障から精彩を欠いていました。

PRP療法をご紹介すると是非この臨床実験にご協力いただけるとの回答があり、2回のPRP療法を行い、痛みもほぼ消失して全力で練習が行えるようになりました。

ただし、1回目終了後は当日から、アキレス腱の強い痛みと腫れで歩行も困難で3日目までは安静が必要でした。4日目からは痛みもほぼなくなり1週間目からは徐々に強度を上げて普段通りの練習ができるまでに回復しました。
その後、1か月経過した時点ではこれまで不可能だった全力での練習がほぼ痛みが無く可能となりました。
数日の痛みと腫れ以外は副作用は一切認められません。

日本選手権への出場も果たせました。
世界陸上で2度の銅メダルを獲得した為末大選手も当院でPRP療法を行い 膝とアキレス腱の痛みが改善して現役レース復帰しました。


パラリンピックでメダルを!



最もPRP療法が有効で活躍されたのは、陸上走り高跳びパラリンピック4大会 代表 鈴木徹選手。


北京パラリンピック後、膝蓋靭帯炎による強い痛みで練習はおろか歩行障害も出て競技生活を終えることを考えられていました。あらゆる治療を施しましたが痛みは改善しませんでした。しかし、PRP療法を知り最後の望みをかけました。

鈴木選手はPRP療法を1回目の施術後、2週間で痛みが軽減されたことを実感され順調に痛みは軽快していき 全くできなかった跳躍練習ができるまでになり ました。まだ、若干の痛みが残っていたため3か月後に 2回目のPRP療法施行。さらに痛みが改善し ロンドンパラリンピック出場を意識して 3回目の施 術。これで完全に痛みが消失し十分な練習を積むことが可能となり ロンドンパラリンピック出場。

結果はメダルには届きませんでしたが 4位入賞、400Mリレーでも4位入賞の大健闘。 リオパラリンピックを目指しトレーニング中です。

共同研究しています 小林メディカルクリニック東京でも フィギュアスケート全日本優勝経験があるオリンピック日本代表選手や ラグビー日本代表、Jリーガーなど多くのトップアスリートへの施術によって有効性を確認されています。
現在も全国の多くのトップアスリートからのオファーもあり今後の研究に期待がもたれます。

株式会社ベリタス様、順天堂大学医学部 総合診療科 小林弘幸教授 順天堂大学医学部付属順天堂医院 整形外科の皆様のご指導、ご協力でPRP療法が国内で普及し故障に苦しむ多くのアスリート、格闘家の福音となることでしょう。
私も微力ですがアスリートの皆様のお力になれますよう臨床研究に精進いたします。

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